東京高等裁判所 昭和43年(ネ)2976号 判決 1975年9月29日
控訴人 白井栄作
<ほか二名>
右三名訴訟代理人弁護士 大竹謙二
被控訴人 伊丹キク
右訴訟代理人弁護士 長野法夫
同 宮島康弘
同 鈴木七郎
同訴訟復代理人弁護士 坂上勝男
主文
一、原判決(主文第二項部分を除く。)を取り消す。
二、被控訴人の請求を棄却する。
三、訴訟費用中、第一審において生じた分は控訴人らの連帯負担とし、第二審において生じた分は被控訴人の負担とする。
事実
控訴人らは、原判決取消、被控訴人の請求棄却、訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人負担の判決を、被控訴人は、控訴棄却の判決をそれぞれ求めた。
当事者双方の主張および証拠の関係は、つぎに一ないし三のとおり付加するほか、原判決書事実らんに記載されているところと同じであるから、これを引用する(ただし、控訴人白井栄作に対し金員支払を求める部分を除く。)。
一、控訴人らの主張
(一) 賃借権の抗弁
1 控訴人らの従前の主張に理由がないとしても、控訴人白井栄作は、昭和四四年七月五日本件土地共有者(共同相続人)本人であり、かつ他の本件土地共有者(右同)らを代理する(この関係については後述)荒木節雄から本件土地を賃料一か月金三、二四〇円、毎月末日限りその月分支払い、期間同四九年五月末日までの約定で賃借する旨の契約を締結した。
2 荒木節雄が右賃貸借契約を締結するについては、本件土地共有者荒木正保(持分七二分の一)、同宮下正三(持分四分の一)からいずれもその代理権を授与され、また、本件土地共有者窪田利政、同窪田とし江、同中島文子(以上持分各一二分の一)、同遠井輝子、同山家民次(以上持分各七二分の一)らからはその後右代理行為を追認されているのである。ところで、右荒木のした賃貸借契約の締結は、共有物たる本件土地のいわゆる管理行為にあたるものというべきところ、荒木節雄が持分七二分の一を有するので、以上の共有者全員の有する持分は合計七二分の四〇で全共有者の持分の過半数にあたるので、右賃貸借契約の締結は、全共有者の持分の価格の過半数を有する者の同意をえたものとして有効であることはいうまでもない。
3 そして、右賃貸借契約は、その後期間満了と同時に前の契約と同一条件をもって更新され現在にいたったものである。なお、控訴人白井義仁および同白井忠重の両名は、控訴人白井栄作の賃借権にもとづき同人の家族として本件建物に同居し本件土地を占有しているものである。
(二) 権利濫用の抗弁
本件土地賃貸借がいわゆる処分行為にあたるとしても、共有持分一六分の一(文治が非嫡出子の場合は二八分の一)を有するのにすぎない被控訴人が、格別の利益もないのに、すでに七二分の四〇の過半数の持分を有する他の共有者らが締結した前記賃貸借契約の無効を主張して本訴請求に及ぶのは、他の共有者の権利を侵害し、いたずらに控訴人らを困惑させるものであって、正当な権利行使の範囲を逸脱し、権利の濫用として許されるべきものではない。
二、被控訴人の主張
(一) 控訴人ら主張の事実中、荒木節雄が控訴人ら主張のように本人兼代理人として控訴人白井栄作との間で本件土地につき賃貸借契約を締結したことは知らない。仮に、荒木節雄がそのような賃貸借契約を締結したとしても、それは共有物たる本件土地のいわゆる処分行為にあたるものであり、したがって、共有者全員の同意を要するものといわなければならないから、持分七二分の四〇を有するにすぎない荒木節雄らのした前記土地賃貸借契約は無効といわざるをえない。
(二) 控訴人らの権利濫用の主張は争う。
三、新証拠の関係≪省略≫
理由
一、本件土地がもと亡鷲沢ミワの所有であって、同女が失踪宣告によって昭和二〇年五月二六日死亡したものとみなされ、これにより被控訴人が他の共同相続人とともに相続により本件土地を共有(その持分の割合はともかく)するにいたったこと、被控訴人が単独で提起した本訴が共有物たる本件土地の保存行為にあたるものとして適法であることおよび賃借権の存在あるいは登記欠缺に関する控訴人らの抗弁がいずれも理由のないことについては、原判決書理由らんに説示されているところと同じであるから、これを引用する。
二、そこで、控訴人らの当審における新たな賃借権の抗弁について判断する。
≪証拠省略≫を総合すれば、鷲沢ミワの共同相続人の一人である荒木節雄は、昭和四四年七月五日、自己本人兼他の共同相続人ら(少くとも被控訴人を除く。)の代理人として、控訴人白井栄作に対し本件土地を賃料月額三、二四〇円、毎月末日限りその月分支払い、期間同四九年五月三一日までの約定で賃貸する旨の契約を締結したこと、右ミワの共同相続人の一人である荒木正保は同四四年四月、同宮下正三は同年六月二一日いずれも荒木節雄に対し前記賃貸借契約締結の代理権を授与し、また同山家民次は同年八月、同窪田利政、窪田とし江および中島文子の三名は同年九月一三日、同遠井輝子は同年一一月二二日いずれも荒木節雄が右同人らの代理人としてなした前記賃貸借契約の締結を追認したことが認められ、他にこの認定に反する証拠はない。
ところで、共有物たる本件土地の賃貸借は、同土地に対するいわゆる管理行為にあたるものと解するのが相当であり、したがって、本件土地賃貸借については、民法第二五二条の規定によりその共有者の持分の価格の過半数をもって決すべきものといわなければならず、しかもこれによる賃貸借は、処分権限のない者による賃貸借にあたることが明らかであるから同法第六〇二条第二号の規定によりその賃貸期間は五年を超えることが許されないものといわなければならないところ、≪証拠省略≫によれば、本件土地につき荒木節雄、荒木正保、山家民次および遠井輝子が各持分七二分の一、窪田利政、窪田とし江および中島文子が各持分一二分の一、宮下正三が持分四分の一をそれぞれ有することが認められるので、荒木節雄が本件土地についてなした前記賃貸借契約の締結は、結局本件土地の全共有者中その持分の過半数に相当する七二分の四〇の持分を有する者によって決せられた結果によるものというべきであり、しかも、同賃貸借契約における賃貸期間が五年を出でない定めであることは前認定のとおりであるから、同賃貸借契約は、前記約定どおりにその効力を生じたものといわなければならない。
そして、≪証拠省略≫を合わせれば、右賃貸借契約は、その後約定期間の満了と同時に従前の契約と同一条件で更新され現在にいたったことおよび控訴人白井義仁、同白井忠重の両名がいずれも控訴人白井栄作の子息であって同控訴人の右賃借権に依拠して本件建物に同居し本件土地を占有しているものであることが認められ、他にこの認定に反する証拠はない。
そうすると、控訴人白井栄作は、本件土地賃借権にもとづいて本件建物を所有して本件土地を占有しているものであり、またその余の控訴人両名は、控訴人白井栄作の有する右土地賃借権にもとづいて右建物に同居し本件土地を占有しているものといわなければならないから、控訴人らの前記抗弁は理由がある。
三、よって控訴人白井栄作に対して本件建物収去、土地明渡、その余の控訴人両名に対して本件建物からの退去、土地明渡を求める被控訴人の請求は失当として棄却を免れず、したがって、右と結論を異にする原判決(主文第二項部分は控訴人白井栄作の認諾により失効したので、同部分を除く。)を取り消して被控訴人の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九六条、第九〇条、第九三条および第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長判事 畔上英治 判事 安倍正三 唐松寛)